2025.07.10コラム
相続放棄と不動産|管理義務や空き家の問題を回避するには

花小金井・田無エリアで不動産売却をお手伝いするセンチュリー21ネクストドアです。実家や親族の不動産を相続することになったとき、「維持費がかかる」「管理が大変」「借金も一緒に相続してしまう」といった理由で相続放棄を検討される方も多いのではないでしょうか。
しかし、相続放棄をしても空き家の管理義務が完全になくなるわけではありません。特に2023年4月に施行された民法改正により、相続放棄後の責任範囲が明確化されました。
本記事では、相続放棄と不動産管理の最新ルールから、空き家問題を回避するための具体的な対策まで、わかりやすく解説いたします。
1. 相続放棄の基本知識
相続放棄とは何か
相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)の財産を一切相続しないことを選択する手続きです。これには現金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金や保証債務といったマイナスの財産も含まれます。
相続放棄の主なメリットは以下の通りです:
-
借金を肩代わりするリスクを回避できる
-
相続人同士の遺産分割トラブルを避けられる
-
不要な不動産の維持費負担から解放される
なお、生命保険金は受取人固有の財産とみなされるため、相続放棄をしても受け取ることができますが、相続税の非課税枠は適用されません。
相続放棄の期限と注意点
相続放棄には厳格な期限があります。相続開始を知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てる必要があり、この期限を過ぎると原則として単純承認(プラス・マイナス両方の財産を相続すること)したとみなされます。
さらに重要なのは、一度家庭裁判所で受理された相続放棄は原則として撤回できないという点です。虚偽の情報による申し立てや未成年者の不当な放棄など、ごく例外的なケースを除いて撤回は認められません。
✓ポイント:相続放棄は期限が短く、一度決定すると撤回が困難なため、慎重な判断と迅速な手続きが必要です。
2. 2023年民法改正による変更点
「管理義務」から「保存義務」への名称変更
2023年4月の民法改正により、相続放棄をした者が負うべき義務の呼称が「管理義務」から「保存義務」へと変更されました。この変更は、相続放棄をした者には管理や処分する権限がないことを踏まえたものです。
名称は変わりましたが、実質的な内容に大きな違いはありません。相続放棄後も一定の条件下では不動産の管理責任が残るという基本的な考え方は継続しています。
保存義務を負う対象者の明確化
改正民法940条では「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは」という一文が明記され、保存義務を負う責任者が明確化されました。
この変更により、以下のような状況が生まれています:
保存義務を負うケース:
- 被相続人と同居していた相続人が引き続きその家に住んでいる
- 相続人が実際に不動産を管理・使用している
保存義務を負わないケース:
- 遠方に空き家があり、生前から管理に一切関わっていない
- 物理的に占有していない状態
✓ポイント:「現に占有している」かどうかが保存義務の判断基準となり、物理的な関与の有無が重要な要素となりました。
3. 相続放棄後も残る「保存義務」とは
「現に占有している」の具体的な意味
「現に占有」とは、「事実上、支配や管理をしている」状態を指します。例えば:
-
被相続人と同居していた相続人が引き続きその家に暮らしている
-
定期的に空き家の清掃や点検を行っている
-
鍵を持って管理している
一方で、管理会社に委託するなどの間接占有が「現に占有」に該当するかどうかは解釈が明確ではないため、懸念がある場合は弁護士に相談することが強く推奨されます。
保存義務の継続期間
保存義務は以下のいずれかまで継続します:
-
次順位の相続人に引き渡すまで
-
家庭裁判所で選任された相続財産清算人に引き渡すまで
つまり、相続放棄をしても、適切な引き渡しが完了するまでは責任が継続するということです。
✓ポイント:相続放棄をしても、現に占有している不動産については、適切な引き渡しが完了するまで保存義務が継続します。
4. 空き家管理を怠った場合のリスク
損害賠償請求のリスク
適切に管理しなかったために空き家が損壊し、第三者に迷惑をかけた場合、高額な損害賠償責任を負う恐れがあります。
具体例:
- 老朽化した壁が倒壊して通行人が負傷
- 空き家からの出火により近隣住宅に延焼
- 屋根瓦の落下による車両損傷
行政からの指導・命令・代執行のリスク
空き家を放置すると、段階的に以下の行政処分を受ける可能性があります:
|
段階 |
処分内容 |
罰則・費用 |
|---|---|---|
|
管理不全空家 |
指導・勧告 |
特になし |
|
特定空家 |
改善措置命令 |
最大50万円の過料 |
|
行政代執行 |
強制解体・修繕 |
解体費用の請求 |
相続放棄の効果喪失リスク
保存義務があるからといって、勝手に遺産を処分してしまうと「法定単純承認」が成立し、相続放棄の効果がなくなってしまいます。結果として、借金を含めすべての遺産を相続せざるを得なくなる可能性があります。
事件に巻き込まれるリスク
放置された空き家が犯罪集団のアジトや薬物栽培の場所として利用されたり、放火されたりするなど、予期せぬ事件に巻き込まれる可能性も存在します。
✓ポイント:空き家の管理を怠ると、損害賠償から行政処分まで、多様で深刻なリスクに直面する可能性があります。
5. 保存義務を回避する具体的な方法
他の相続人に引き継ぐ
最も確実で費用を抑えられる方法は、次順位の相続人が相続放棄をせず、財産を相続してくれる場合です。占有していた遺産を引き継ぐことで保存義務がなくなります。
✓手続きのポイント:
- 書面で合意を取り交わす
- 相続登記を完了させる
- 引き渡し日時を明確にする
家庭裁判所への相続財産清算人選任申し立て
他に相続人がいない場合や、全員が相続放棄をした場合でも、現に占有している者には保存義務が残ります。この義務を免れるには、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てる必要があります。
手続きの流れ
-
申立て先:被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所
-
必要書類:
o 申立書
o 被相続人や相続人の戸籍謄本類
o 財産に関する資料 -
費用:
o 収入印紙:800円
o 郵便切手
o 官報公告料:約5,000円
o 予納金:20万円から100万円程度(場合によっては100万円以上)
相続財産清算人の役割
相続財産清算人は、被相続人の債務を支払うなどの清算を行い、残った財産を国庫に帰属させる役割を担います。通常、弁護士や司法書士などの専門家が選任されます。
✓ポイント:相続財産清算人の選任は確実な解決策ですが、高額な予納金が必要となる場合があるため、事前の費用確認が重要です。
6. 相続放棄以外の空き家対策
売却・贈与による解決
空き家の管理コストや手間をなくす最も効果的な方法は、第三者への売却や贈与です。
空き家特例の活用
特定の条件を満たせば、「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例(空き家特例)」により、最大3,000万円の控除を受けられます。(出典:被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例|国税庁)
適用条件
- 被相続人が一人で居住していた
- 1981年5月31日以前に建築された家屋
- 売却前に耐震リフォームまたは除却を実施
注意点
売却や贈与には以下の税金が発生する可能性があります:
- 譲渡所得税
- 住民税
- 贈与税
賃貸経営への転換
空き家に資産価値がある場合、リノベーションなどをして賃貸に出すことで、継続的な家賃収入を得ることも可能です。
メリット:
- 継続的な収入源となる
- 資産価値の維持・向上
デメリット:
- 初期投資(リノベーション費用)が必要
- 入居者が見つからないリスク
- 空室時の管理費用
寄附による解決
コストをかけずに空き家を手放したい場合は、自治体やNPO法人への寄附を検討できます。
メリット:
- 無償譲渡となるため利益は得られないが、譲渡所得税が非課税になる可能性
- 管理責任からの解放
デメリット:
- 利用価値が見込める空き家でなければ寄附を断られる場合がある
相続土地国庫帰属制度の活用
2023年4月に施行された新しい制度で、相続した土地を国に引き取ってもらうことができます。
適用条件:
- 空き家を解体して更地にする必要がある
- 土壌汚染や所有権争いがないこと
- 10年分の管理額に相当する負担金の支払い
✓ポイント:相続放棄以外にも多様な選択肢があり、それぞれメリット・デメリットを十分に検討することが重要です。
7. 専門家への相談が重要な理由
複雑な判断が必要な理由
相続放棄は、プラスの財産とマイナスの財産を総合的に考慮した複雑な判断が求められます。特に以下の要素が絡み合うため、自己判断では限界があります:
-
相続財産の正確な評価
-
債務の把握
-
空き家の管理コスト
-
税務上の影響
-
法的リスクの評価
期限の制約
相続開始を知ってから3ヶ月という短期間で適切な判断を下し、確実に手続きを進めるためには、専門家のサポートが不可欠です。
各専門家の役割
|
専門家 |
主な対応分野 |
|---|---|
|
弁護士 |
相続放棄の手続き全般、トラブル対応 |
|
司法書士 |
相続登記、相続財産清算人申立て |
|
税理士 |
相続税、空き家特例などの税務処理 |
|
不動産業者 |
売却、査定、市場動向の提供 |
個別状況に応じた最適解の提案
専門家は、相続放棄が本当にベストな選択肢であるか、売却や寄附といった他の方法がより適切であるかなど、個別の状況に応じた最適なアドバイスを提供してくれます。
✓ポイント:相続放棄や空き家問題は専門性が高く、個別性の強い問題のため、早期の専門家相談が成功の鍵となります。
8. まとめ

相続放棄は、不要な不動産を引き継ぐ負担を回避するための有効な手段となりえますが、特に空き家の場合、「現に占有している」場合には保存義務が残るという重要な変更点を理解しておく必要があります。
2023年の民法改正により、保存義務を負う対象者が明確化されましたが、それでも複雑な判断が必要な場面は多く存在します。保存義務を怠ると、損害賠償や行政指導、最悪の場合には相続放棄の効果が失われるといった重大なリスクを招く可能性があります。
花小金井・田無エリアで不動産に関するお悩みをお持ちの方は、センチュリー21ネクストドアまでお気軽にご相談ください。私たちは地域に密着した豊富な経験と専門知識を活かし、お客様一人ひとりの状況に最適な解決策をご提案いたします。
これらのリスクを回避し、最適な解決策を見つけるためには、自己判断せずに、必ず相続問題に詳しい弁護士などの専門家に相談することが強く推奨されます。専門家のサポートを得ることで、円満かつ安全に空き家問題を解決し、将来的なトラブルを防ぐことができるでしょう。
相続は人生で何度も経験するものではありません。だからこそ、適切な知識と専門家のサポートを得て、後悔のない選択をしていただきたいと思います。